夏に蠢く。
ジョンレノンが凶弾に倒れる約半年前。
僕は炎天下のグラウンドで痛みをこらえながら、
最終イニングを守っていた。
ファールフライを取って転倒し、鎖骨を骨折。
試合途中だったが、あと一人で初の一回戦突破。
右肩をかばいながらホコリ舞う
グラウンドに立っていたのだ。
普段とは違う、ねっとりとしたイヤな汗
試合には勝ったのだが、
僕の中体連は終わったのだ。
病室のラジオからストーンズの
「Time Waits For No One」が流れていた。
特集らしく、エンディングまでかかるのは珍しい。
ミックテイラーのギターとチャーリーのドラム。
北海道の夏は短い。
部活が終わった開放感から
3年生は遊び惚けている。
15歳、夏。
楽しい、夏休み。
部活から解放された、夏休み。
秋から勉強すればよい、夏休み。
中学生活最後の夏休み、何でもあり。
春先の蟲の如く
部活で抑制されてきた若いパワーが蠢きだす。
ウゴメキだす。
僕は右腕と上半身を石膏で固められたママ、
何でもありの夏休みを、ベットの上で過ごしていた。
ラジオからはまだ、ギターソロが流れている。
日曜日の整形外科は休診日なので、
入院病棟はひっそりとしている。
誰もいない外来の待合室へ降りて、テレビをつける。
玄関先に見える道路には、
眩しい程の光が反射していたが、
待合室の蛍光灯は落とされており、
自分の居る場所だけが世の中から取り残された様な、
薄暗い闇に包まれていた。
観たい番組はやっていなかったが、
かといってする事もない。
午後になって、同級生が見舞いに来た。
パジャマ姿、寝癖のついた青白い僕とは対照的に
日焼けしている。
彼の第一声は
クラスのアイドルだったあの子が
そんなに良いイメージではないアイツと
つき合っているみたい…
と言う、タレこみだった。
彼も、その子の一派だったので、
その負のエネルギーを発散すべく、
僕に吹き込みに来たのだ。
事の一部始終を話す、
ウゴメキ損ねた彼。
余計な事を!
下半身と頭は健康な15歳。
石膏で固定されている右腕と上半身。
この夏、ウゴメく事が出来ない、僕がそこに居る。
時間が経つのを待つしかないのだ。
骨が繋がるのを待つしかないのだ。
The Rolling Stones「Time Waits For No One」

2週間後、上半身を覆う石膏が剥がされた。
骨は繋がった。
身体の不自由から解放されたのだが、
もう既に何でもありの夏休みは過ぎ去った後だった。
▲ 春だぞ!ウゴメかずして、どーするのだ。 MAREBITO
※初稿20100320